The exhibition: Grimm Museum
2017年12月1日から2018年1月7日まで、Grimm Twins (Ayumi Makita とBarbara Lachi)による展覧会”Grimm Museum”が、
中部イタリアペルージャの3つの美術館・博物館Capitolo della Cattedrale di San Lorenzo美術館、Palazzo della Penna市立美術館、
ウンブリア州国立考古学博物館で開催された。国立考古学博物館では特別に1月21日まで会期が延長されるなど、展覧会は大きな評判を呼んだ。
この展覧会のオープニング・レセプションでは、ペルージャの美術評議委員長Maira Teresa Severiniが、
---umbriaoggi.newsよりコメント抜粋ー「誰にも夢をみさせてくれる童話がテーマですが、よく見かけるような展覧会とは趣向が異なり、
いっそう独創的で、典型的な東洋の繊細さが西洋の文化に融合しており、本当に魅力的です」と賛辞を贈っている。
確かにこの展覧会の魅力は、東西文化の融合にある。つまり、2人の作家がそれぞれ日本とイタリアに出自を持ち、ドイツのグリム兄弟
(19世紀の言語学者、民話収集家・文学者)の童話を題材に、想像力を膨らまして現代によみがえらせている。しかし本展の魅力はそれだけに留まらない。
何よりも表現手段が多彩だ。イラストレーションが基調となるが、それだけではなく、折り紙、切り紙などを用いたインスタレーション(空間表現)、
イラストを動画にしたアニメーション、さらには影絵のシアターを3次元的に仮設するなど、実にバリエーションに富んでいる。
最終日には、Cecilia Ventrigliaによるパフォーマンス”Rosaspina”(Sleeping beauty)も披露された。
ペルージャの国立考古学博物館に収蔵されている、古生物学者、化学者、天文学者であったGiuseppe Bellucci(1844-1921)の集めたアミュレット
(魔除け、お守り)から発想したオブジェの制作もあちこちに展示されていた。その民族学的資料と現代美術の興味深い融合によって、
どこか無気味な恐ろしさと魔術的な不思議を醸しだし、展覧会に魅力的な彩りを添えていた。
歴史の隔たり、国や惑星の境界、表現のジャンルを自由自在に行き来する、不思議で幻想的な展覧会なのだ。
さらにグリム・ツインズは、展覧会に合わせてコラージュや折り紙をテーマとする子供向けのワークショップをあちこちで行った。
彼らは観客も巻き込んで自分たちの創造する世界に参加させ、それをみんなで共有する場を作っている。アートを広い意味での社会貢献に
つなげていることも注目に値する。
動画制作は、支援団体アーモンド・コミュニティネットワーク(NPO法人)の協力を得ている。
不登校や引きこもりの悩みを抱える学生、仕事や家族の問題を抱える人々を救済する団体だ。
この展覧会は、単なる子供のための工作展ではないし、メルヘンチック・乙女チックなイラスト展でもない。つくるという自閉的なシステムからの脱却、
展覧会という古いシステムの境界線を広げる発案、企画。過去の文化の継承を促し、未来に繋げる真剣な活動でもある。
ペルージャという街から世界へ発信する、Grimm Twinsの意図とは?
作者=主体と観客=客体の間にある境界線を外して、見えないものを見えるようにすること。そこには疲れ切った、諦めた若者たちへの力強いメッセージも
ある。この展覧会は怖い世界も垣間見せている。そもそもグリム童話には恐ろしい話が満載だ。子供達は、御伽話や民話から、考えることを学ぶ。
アミュレットで身を守りながら、おそるおそる中へ入って見よう。ふと足を止めてみると、そこには、私たちを夢みさせてくれる童話がある。
でも人生は美しい薔薇や純白なお花ばかりに包まれているわけではない。人生は辛いことの方が多く、世界には、棘の生えたいばらやネズミもいる、
そして可愛い猫はネズミを食べようと追いかける。でも勇気を出して、一歩踏み出してみよう、そのように伝えているように感じられる。Grimm Twinsは、文学趣味やありきたりな比喩、意味ありげな象徴、感覚的な美しさを超えて、静かに軽やかに独特の透明で普遍的な詩的世界を確立しつつある。